寒く冷たい冬のモチベーション
新しいモノを手にするとテンションがあがるのは、きっと何でも同じこと。洋服だっておもちゃだって同じ。たとえば、今年はこれで滑ろうと、新しく購入したギアやウェアがある場合とない場合とで、ウインターシーズンへの意識は変わってくる。ソールにワックスを塗って、部屋で鏡を見ながら試着をして。そうして雪の便りを待つのは、おそらくニューボードやニューウェアだからこそ。
で、四季のある日本で、寒く冷たい冬の海へ、夏のように足しげく通うのは、やはり難しいものがある。ただ、新しい何かが背中を押してくれるということを、冬を前にサーフボードをオーダーしたことで知ることができた。
とある晩秋。訪れた工房の主、Yさんは、「え、6’0”? そりゃ短いよ」と言い放った。サーフボードを新調するうえで、参考にと今使用している持っていった1本を見せたときのことだ。
「小山内、自分のカラダの大きさをもっと自覚した方がいいよ。カラダつきだけを考えればデーン・レイノルズのスペックだけどさ。向こうは世界のトップサーファーだからね。小山内は、週に1度いけるかどうかでしょ。楽しむことが何より大切で、それにはもっとサイズがあった方がいいよ」
そして「今俺が使っているのを見せてあげるよ」とクルマから取り出してくれたのは、6’8”のクアッドフィッシュ。長さがある割に流線型のフォルムがシャープで、カッコイイのひとこと。ガンダムのモビルスーツや、スーパーカーといった、最先端技術が搭載された近未来的デザインを思わせるクリアなサーフボードに、男ごころはキュンキュンとうなった。
自分の欲しいカタチを自分でつくりだし、海に持ち出してはサーフをたのしむ。それは欲しいおもちゃを自分でつくってたのしんでいるといってもいい。シェイパーとはなんとうらやましい仕事なのか。そう思わされてしまったら、サーフボードを熟知するYさんにすべてを委ねたくなってしまった。
「長さはどうする?」「テールのかたちは?」「フィンの数は?」「色は? エアブラシやティント、ピグメントもあるよ」と次々に質問がやってくる。と同時に、同じく持参した今使っている6’6”のシングルスタビがお気に入りで、それをもうちょっと動くようなデザインが欲しい、というのが今回のオーダー内容であることを告げると、こんどはバリエーションある答えを用意してくれた。
「動きを出すためにノーズエリアをじゃっかんシャープにする。そのぶん幅を持たせて、あとはテールのカタチをどうするか。ラウンドでもスカッシュでもフィッシュでも、それは好みの乗り味次第で決めていいと思う。フィンはトライかクアッドがいいかな。違った乗り味をたのしみたいなら、クアッドがおもしろいかもよ」
長さについても。
「小山内が使っているのは6’6”だけれど、もうちょっと長さを出してもいいと思う。6’8”とかね」
動きやすさを出すため「6’2”とか6’4”とかですかね」と短めのサイズをいうと、その言葉はくつがえされた。なるほど。きっとYさんの頭のなかには、すでに完成図があるのだろう。今使っているサーフボードのランディング感をイメージし、そこにリクエストの内容を組み合わせる。さらに僕のカラダの大きさ(178センチ、78キロ)を見て、スペックを出していく。
強制的にではなく、あくまでこちらの要望に対して、「こういう選択肢があるけれど、どうする?」といったスタンスでYさんは接してくれた。答えをこちらに委ねてくれつつ、決断に迷うと、「Aを選ぶとこういう感じ。Bだとこういう感じ」とヘルプを出してくれる。そうしてひと通りの会話が終わると、残っていたのはたのしみでしかなかった。仕上がってくるサーフボードそのものと、そのサーフボードをもって海へ行くことへのたのしみだ。
「どうせ冬はスノーボードにいって、あまり海へいかないんだろう?」ともいわれたが、いやいやどうして、新しいサーフボードはとても大きなモチベーションになってしまった。しかも、10月上旬に行ったフランスで波があたってしまい、ひさびさに緊張感のある波でサーフをしたことがサーフ熱を高めてもいた。
フランスのビアリッツ周辺ですごした滞在では、ここ数年の、ゆるくメローな波でのサーフィンばかりの日々にお灸をすえられたような、背筋がピンッとのびる波でのサーフタイムが多々。あ、もうちょっとちゃんとサーフィンしたいな。帰ったらサーフボードをつくろう。そう感じて、Yさんのところにやってきたのだ。
「そうか。だったらもっとサーフィンたのしくしてあげるよ。サーフィンは、キープ・パドリング、キープ・リッピングだからな」
未来を想像したたのしい時間はおわると、今度はまた違ったたのしさ浮かんできた。待望のサーフボードは年明け1月にやってくる。いわれなくても日本の冬は寒い。寒いけれど、暖かい春までパドルアウトを我慢できる気はしない。